アポロマーベリック~大障害コースに咲いた華~

アポロマーベリック。

彼は、大障害コースに美しく咲き誇った。

凜として華やかな、そんな競走馬であった。


「アポロマーベリックに魅せられて、障害レースを見始めた」


そのような声を、周囲で多々耳にする。


マーベリックは、華麗な飛越で、美しいルックスで、王者たる力強い走りで、沢山のファンを惹き付けた名障害馬であった。

惜しくも彼は2015年の暮れ、華の大障害コースで永遠の眠りについた。

マーベリックは、多くのファンを障害競走の世界へと誘った事で、今なお障害競走の活性化に貢献する存在として生きている。

障害競走を愛するファンがいる限り、きっとこれからも。

舞台は中山競馬場。

年2回のJ-G1が行われる大障害コースが、障害王者アポロマーベリックの最も得意とする舞台であった。


この場で改めて、大障害コースでの彼の勇姿を幾つか紹介していきたい。

■2013年12月21日:中山競馬場にて

障害競走に携わる全人馬の憧れ・華の大障害コースに、アポロマーベリックが初めて足を踏み入れたのは寒さの厳しい冬の事だった。


彼を管理する名伯楽・堀井調教師が抱いた、


「障害の申し子かもしれない」


という期待と共に。

「中山で華開き、中山に生きた障害王者」としての伝説の始まり……2013年、中山大障害のゲートが開く。


果敢に先行したマーベリックは、大竹柵を、大生垣を「障害の申し子」と呼ぶに相応しい飛越でクリアしていく。

 

スタミナを発揮し後続を突き放す、その直線は一人旅であった。結果は、8馬身差の圧勝。

混戦模様の障害界を切り裂き「障害王者アポロマーベリック」が誕生した瞬間であった。


「跳びがすごく上手な馬。体の使い方が上手で、スタミナのロスが少ない」

「障害センスの塊みたいな馬ですよ。安心して乗っていられます」

 

とは、彼の鞍上を務めて人馬共にJ-G1初勝利を成し遂げた五十嵐雄祐騎手の弁。

 

マーベリックは、名障害馬の故障、引退、この世からの旅立ち……そのような障害界に現れた、驚くべき才能に恵まれた新星であった。


明くる年、彼はその活躍を讃えられ、2013年JRA賞・最優秀障害馬に選出される。

まさに新障害王者、誕生の瞬間であった。

■2014年4月19日:中山グランドジャンプ

前哨戦、小雨のペガサスジャンプステークスを快勝したアポロマーベリックは、春の大一番を単勝1.4倍という圧倒的一番人気で迎えた。

実際にレースが始まると

「これぞ障害王者」

の一言。

まるで障害競走の理想形を見ているかのようなレースだった。


好スタートからハナに立ったマーベリックは、飛越・バンケットの巧みさを発揮し、後続を引き離していく。


芸術的と言っても過言ではない、大竹柵・大生垣の華麗な飛越。

「ついて来られるものなら、ついて来い」

直線を向くと、無人の野を往くかの如し独走体勢。5馬身差の圧勝をもって、アポロマーベリックはJ-G1を2連勝、そして春秋J-G1完全制覇を達成した。


まさに「魅せる」レースをする、そんな王者であった。


「余裕をもって乗れたし、強さを証明できた」


五十嵐騎手をしてそう言わしめた天才ジャンパー、アポロマーベリック。堀井調教師からも

 

「障害界を引っ張って欲しい」


との期待が寄せられた。

■2014年12月20日:暮れの大一番。

アポロマーベリックは人々の期待と共に、大障害コースへ帰ってきた。


3コーナー手前で、満を持してロングスパートをかけるマーベリック。その瞬間、中山競馬場が沸いた。これぞ力で捩じ伏せる王者の競馬である、と。

このまま決まりか。いや、1頭来ている……そう思う間もなく直線、鋭い末脚で彼を差し切ったのは、同期のレッドキングダムであった。

マーベリックは2着に敗れたものの、今後の障害界を牽引する事になるであろう2頭に障害ファンは期待を寄せ、激闘を讃えた。


翌年アポロマーベリックは2014年の活躍を認められ、2年連続で最優秀障害馬を受賞するという偉業を達成した。


その際、堀井調教師は彼をこう讃えたーー


「障害馬としての資質が三拍子揃っているんです。飛越は上手だし、スピード、そして持久力もあり、本当に素晴らしい馬」

 


ーーと。

■2015年12月26日、中山大障害。

春の大一番では果敢にハナを切り、ハイペース勝負に持ち込んだものの、アップトゥデイトの5着という結果に終わったマーベリック。


2014年・中山グランドジャンプ以降、障害界には多くのニューフェイスが現れた。しかし、アポロマーベリックとて王座を譲る訳にはいかない。


「マーベリックの復活が見たい」

 

ファンはそう願い、彼を信じた。

 

12月5日、大一番の前哨戦・イルミネーションジャンプS。アポロマーベリックの走りに、確かに復調気配が見えていた。

そんな彼の意地を見たファンは「大障害の舞台ならば」と、暮れの大一番での王者復権に期待を込めた。

そして、ファンと彼は、その日を迎えた。


第138回、中山大障害。


ゲートが開き、彼のポジションは後方だった。


各馬が大障害コースに入り、名物の大竹柵へとさしかかる。「全人馬、無事飛越」ということに、拍手が沸き起こった。

しかし既にマーベリックの左前脚は、障害飛越に耐えうる限界を超えようとしていた。


それでも、中山大障害馬としての意地であろうか。

彼の、その馬生最期の大竹柵飛越は、中山に生きた彼らしい、渾身の、美しい飛越であった。

そして……大竹柵の次に待ち構えていた生垣障害。


異変を察知した鞍上が手綱を引き、彼はその手前で競走を中止した。


競走中止を告げる実況に、スタンドからどよめきが起こった。


その後も、毅然と立ち続けたマーベリック。


左前脚に「予後不良」の診断が下されるほどの致命傷を負いながらも。

「せめて命だけは……」

そうした祈りも虚しく、彼を待ち受けていた運命は、自身が輝いた華の大障害コースで、その若い命を散らすという酷なものであった。

 

この日も、彼の飛越は美しかった。


障害王者としての、威風堂々とした立ち居振舞いが一際、目を惹いたーー。


今年も、中山大障害がやってくる。

 

彼が初めてのJ-G1タイトルを手にしてから、そして旅立ってから、時は流れた。

 

在りし日のマーベリックに魅了されたファンは、現在の障害界を担う人馬に声援を送っている。

彼の面影に想いを馳せつつも、今年暮れの中山に輝く障害王者を迎えようとしている。

願わくは「全人馬、無事完走」の拍手と共に。

毎年冬になると、その舞台となる大障害コースに花が咲く。

暮れの大一番に、彩りを添える。

その鮮やかな紅に、中山に生きた彼の記憶が甦る。

 

アポロマーベリック。


彼は、大障害コースに美しく咲き誇った。

 

凜として華やかな、そんな障害王者であった。

文・川井旭

写真・すぺっきお、ちょこた、おおくまめぐり

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