金沢JBC観戦記~日本競馬史上、初の一日~

 一日で3つのJpnⅠが行われるJBC。地方競馬ネット投票が普及した今となっては、JRAのファンにとっても一大イベントとなっています。

 2017年はJRAの開催日に行われることになっていますので、ファンとしてはJRAを楽しんだあとそのままJBCに突入していけることになります。

 また、2018年は初のJRAの主催となり、京都競馬場で行われることが決定しています。地方競馬ファンとしては若干残念なところもある人もいるかもしれませんが、新境地を開拓してくれることを期待しています。

 JBCは2001年に第1回が大井競馬場で開催され、その後、各地方競馬場の持ち回りで行われており(実際は様々な事情もあり、一部の競馬場で持ち回っていますが)、2017年は大井競馬場で開催されます。

 私は地方競馬場は全て訪れましたが、JBCは一度しか訪れたことがありません。その一度が2013年、金沢競馬場で開催されたJBCです。

 今でこそJBCレディスクラシック、スプリント、クラシックの3つのJpnⅠが開催されていますが、以前はレディスクラシックがありませんでした。レディスクラシックは2011年に創設されたものの、JpnⅠ格付けされたのは2013年からなので、金沢のJBCが日本競馬史上初めて「同日に3つのJpnⅠが開催された日」だったのです。

 今回は日本の競馬史上初めて一日に3つのJpnⅠが開催された2013年の金沢JBCデーを、当時の記憶をできる限り思い出しながら、当時の写真とともに振り返ってみたいと思います。

残念ながら、今の腕も大したことありませんが、当時は今以上に撮影の腕がなく、写真はボケまくり、ブレまくりなので、そのあたりはお許しください。

 当時、私は金沢競馬場を訪れたことがまだ一度しかなく、振替休日での開催、都市圏ではない地方圏の競馬場、さらには金沢では初のJBCということで、どれくらいのファンが押し寄せるのか、いろいろと手探りの面がありました。

 前日の昼前後に車で出発し、車内のラジオでJRAのみやこS、アルゼンチン共和国杯の中継をを聴きながら、まったく知らない道を運転していました。途中渋滞に巻き込まれたり道を間違えたりしながら、ホテルに着いたのは夜の8時前後だったような気がします。ホテルの向かいのスーパーで値下げされた惣菜類を漁り、酒を買ってホテルに戻りました。

 話は脱線しますが、私はパリーグは楽天イーグルスのファンであり、金沢JBC前日の11月3日は、巨人との日本シリーズの最終戦を迎えていたのです。第6戦の田中将大で決まると思っていたものの、敗れて3勝3敗となり、最終戦の9回、前日160球を投げ完投していた田中将大がまさかの抑えとしてマウンドに上がり、最後の打者矢野を空振り三振にとって日本一を成し遂げました。ホテルで食事をとりながら大興奮し、狂喜乱舞していました。正直その日は翌日のJBCどころではありませんでした。金沢JBCの話を書きながら、一番強烈に思い出すのは楽天イーグルスの日本一というのもどうかと思いますが……。

 さて、話を戻しましょう。

 いよいよ迎えたJBC当日、前日の雨もあり馬場状態は不良だったものの、奇跡的に天気には恵まれました。JBC3レース以外は全て協賛競走で組まれた全11レースで、最終レースには2歳重賞百万石ジュニアカップも組まれている充実のラインナップでした。安藤勝己さんのトークショーをはじめ、先着7000名にスピードくじでの入場者プレゼント、そして各種グルメや物産展の出店など、場内は朝から大賑わい(だったと記憶しています)。

 この馬JRAにいたなあ、この馬ホッカイドウ競馬で新馬勝ちした時口取り撮影入れてもらったなあ、などと、朝から思い出に耽りつつ馬券を楽しんでいると、アッという間にJBC3連戦がやってきました。

 8レースはJBCの初戦として、レディスクラシックが行われました。最初にお話したように、JpnⅠとして初めて行われるレディスクラシックです。

 単勝1番人気1.0倍と圧倒的な支持を集めたのは、ミラクルレジェンド引退後に牝馬ダート路線の女王に君臨していたメーデイアでした。芝のヴィクトリアマイルは惨敗したものの、牝馬交流重賞は4戦4勝。相手関係からも人気は頷けるものでした。

 2番人気は大きく離されて11.4倍の3歳牝馬サマリーズ。前年の全日本2歳優駿勝ち馬で、前々走スパーキングレデイーCでは逃げてメーデイアの2着となっていた快速馬です。さらに、3番人気はホッカイドウ競馬から転入後、地道に条件級を勝ち上がってきたキモンレッド。続く4番人気は当時は不振が続いていたものの、3歳時には牡馬相手に東京ダービーを制し、その後もJRA勢と互角に渡り合ってきた船橋のクラーベセクレタ、5番人気は交流重賞でメーデイアの2着が2回あったアクティビューティで、ここまでが単勝20倍を切るオッズでした。その他にはその後交流重賞でも善戦した愛知のピッチシフターなども出走していました。

 金沢1500mで行われたレディスクラシック。メーデイアはデビュー戦を除いて1600m以上を使われており、2番枠からいい位置につけられるのかが気になっていました。出脚はそれほどではなかったものの、浜中騎手が押して押して逃げたトシキャンディの外目の2番手につけた時点で、勝負はほぼ決着。JRA勢5頭が先行集団を形成する形になりましたが、メーデイアは勝負所で逃げるトシキャンディに並びかけ、4角では楽な手応えで早目に先頭へ。その後は後続を寄せつけず、女王の力を見せつけ、JpnⅠとして初めて行われたレディスクラシックの初代勝ち馬となりました。

 2着アクティビューティ、3着キモンレッド、4着トシキャンディとJRA勢が4着までを独占し、5着にピッチシフターが食い込む健闘を見せ、クラーベセクレタは6着。サマリーズは見せ場なく11着に敗れました。

 メーデイアはデビューが3歳春、初勝利をいわゆる「スーパー未勝利」であげた遅咲きの馬で、4歳時に地道に条件戦を勝ち上がり、交流重賞に出走したのは5歳となったこの年、2013年1月のTCK女王盃が最初でした。また、馬主の社台レースホースの牝馬は6歳の春で引退することになっていますから、レディスクラシックがこの年にJpnⅠ格付けされたのはメーデイアにとってとてもタイミングが良かったのではないでしょうか。馬名の由来は「ギリシャ神話に登場する王女」で、彼女は「王女」から2013年は「女王」となり、翌年2014年に6歳時のTCK女王盃でワイルドフラッパーをアッサリ退け、ちょうど1年間一気に駆け抜け、女王のまま引退しました。初年度産駒は父ディープインパクト。産駒たちはどんな走りを見せてくれるのでしょうか。

 さて、続く9レースは1400mで行われたJBCスプリントです。

 単勝1番人気は1.7倍の支持を集めた古豪エスポワールシチー。前走で3度目の南部杯制覇、後藤騎手に頸椎骨折からの復帰後初JpnⅠ勝利をプレゼントし、まだまだ健在を印象づけました。(ちなみにその南部杯は現地で観戦していました)。

南部杯ゴール後のエスポワールシチー

 2番人気は前年のJBCスプリントの勝ち馬で、前哨戦の東京盃を制してJBCスプリント連覇を狙うタイセイレジェンド。3番人気は2年連続JBCスプリント2着で、悲願のタイトル奪取を狙うセイクリムズン、4番人気は前年のフェブラリーS勝ち馬で前走東京盃2着のテスタマッタ。ここまでが単勝1桁台のオッズで、5番人気にはドリームバレンチノが推されました。2017年も現役を続け、今でこそ交流重賞の常連のドリームバレンチノですが、当時は初めてのダート参戦でいきなりのJpnⅠと、正直苦しい戦いだろうという見方が多かったかと思います。地方勢の最上位人気は、前哨戦のオーバルスプリントでタイセイレジェンドを破り、5連勝と勢いに乗る大井のセイントメモリーとなりました(このオーバルスプリントも現地で観戦していました)。

オーバルスプリント4角

 レースはセイントメモリーが内から好スタートを決めてハナを主張、続いてセイクリムズン、大外枠のエスポワールシチーはスムーズに3番手の外につけ、内にタイセイレジェンド、外にテスタマッタ、ドリームバレンチノは1.2角で追っつけて中団やや後方の外の位置取り。

 勝負どころでエスポワールシチーは軽く気合をつけられると、楽にセイントメモリーに並びかけ、直線余裕十分に抜け出しを図ります。ここで観衆を驚かせたのがドリームバレンチノでした。初ダートで外にいたはずのドリームバレンチノが4角で内ラチ沿いに突っ込み、一気に差を詰めてきていたのです。初ダートの馬とは思えない進路取りと脚色でした。あのシーンは今でも印象に残っています。

  最後は抜け出したエスポワールシチーが、粘るセイントメモリーと内ラチ沿いの狭いところを割って伸びるドリームバレンチノを抑え切って、南部杯に続くJpnⅠ連勝を果たしました。3着には渋太く盛り返して伸びたセイクリムズン、4着にテスタマッタ、5着にセイントメモリーが粘り込み、タイセイレジェンドは勝負どころで後退して7着に敗れました。

 後藤騎手は派手なガッツポーズでのゴールとなりました。しかし結果的にこの勝利が後藤騎手にとって最後のJpnⅠ勝利となろうとはその時は誰しも思わなかったことでしょう。翌年再び頸椎骨折の重傷を負った後藤騎手は秋に復帰したものの、2015年、自ら命を絶ち帰らぬ人となりました。

 

 エスポワールシチーは次走のJCダート7着を最後に引退、種牡馬入りし、初年度産駒から早くも門別、盛岡で重賞勝ち馬を出すなど、順調なスタートを切っています。

 そして金沢JBCのトリを飾ったのが2100mで行われた10レースのJBCクラシックです。

 1番人気は4歳を迎えてダート王者の地位を確固たるものにしつつあったホッコータルマエで、オッズは1.4倍。前走の南部杯こそ休み明けでエスポワールシチーの後塵を拝したものの、それまで5連勝でかしわ記念、帝王賞を制していました。

 2番人気は前年のJBCクラシック勝ち馬で、7歳を迎えたワンダーアキュート。JBCクラシック勝ち以降も3着を外さない堅実な走りで前哨戦の日本テレビ盃を制しての参戦となりました。3番人気は今年ダイオライト記念を3連覇し、2016年に韓国GIコリアカップを制するなどその後もトップクラスの活躍を続けるクリソライトで、当時は3歳でジャパンダートダービーを圧勝したばかり。ここが初の古馬一線級相手のレースとなりました。4番人気は前年のジャパンダートダービー勝ち馬で2013年も川崎記念を勝つなど、長距離戦に自信を持つハタノヴァンクール。前走同じ金沢2100mの白山大賞典で60㌔の酷量を背負いながら2着しての臨戦となりました。単勝1桁台はここまでで、5番人気にはソリタリーキングが14.9倍で推され、6番人気愛知のサイモンロードで448倍と、完全にJRA5頭の戦いという様相を呈していました。

 レースはサイモンロードが好スタートを切りますが、1番枠からホッコータルマエが行き脚をつけてハナに立ちスタンド前ではスローに落とす展開となりました。ホッコータルマエをマークするように2番手サイモンロードの外にワンダーアキュート、内にソリタリーキング、そのあとに口を割りながら掛かり気味にクリソライト、一番外にハタノヴァンクールといった隊列で、スローな流れで地方馬も含めて一団で進みました。

 向正面に入ったところで逃げるホッコータルマエが一気にペースを上げ、サイモンロードは後退、ワンダーアキュート、ソリタリーキングがホッコータルマエに離されないよう追いかけていく展開となり、スムーズさを欠いたクリソライトはついていけず、ハタノヴァンクールはレース中に故障を発症していたとのことでズルズル後退、4角では3頭が1馬身ほどの間隔で縦に並び、後続を大きく離して3頭の戦いとなりました。直線に入ったところで2頭をスッと突き放したホッコータルマエがワンダーアキュートとソリタリーキングの2着争いを尻目に2馬身差の完勝。レコードタイムでJpnⅠ3勝目を飾りました。2着にはソリタリーキングの追い上げをハナ差凌いだワンダーアキュートで、4着に地元のジャングルスマイルが健闘したものの、3着ソリタリーキングからは2.7秒の大差をつけられる結果となりました。クリソライトは5着、ハタノヴァンクールはホッコータルマエから7.2秒離された11着に終わり、入線後下馬、屈腱炎ですぐに引退が決まりました。

 勝ったホッコータルマエはその後、GI級レースの勝ちを7つ積み上げ10勝とし、川崎記念3連覇、2014年から3年連続ドバイワールドカップに遠征するなど、息の長い活躍を続け、2016年引退しました。

 日本の競馬史上初めて一日にJpnⅠレースが3つ開催された金沢JBCは、JRA勢が全てのレースで3着までを独占する結果となり、3レースとも単勝1倍台の1番人気馬が力を見せた形となりました。

 強い馬が強いレースを見せることももちろん見応えがありますが、地方競馬ファンとしては、地方勢がJRA勢に立ち向かう、勝ち負けを演じるという場面もJBCの醍醐味だと思っていますので、フジノウェーブのような地方勢のJBC勝ち馬が再度現れる瞬間を見てみたいと思っています。

 

 JBCデーの金沢競馬は一日の売得金が24億9000万余りで、従来の8億6000万余りの記録を大幅に更新する金沢競馬のレコード。当然1レース当たりの売得金も金沢競馬レコードで、前年2012年の金沢競馬の総売得金がおよそ92億円ですから、1日で前年の約1/4の金額が売れたことになります。入場人員も1万2000人余りで、1万人を超えたのは14年ぶりだということでした。当日は窓口が混雑し、早い時間帯から馬券を変えなかったファンもいたとのことですが、私は一日中ネットで購入していたため、その点では助かりました。ただ、あれだけ人が入っていた感覚があっても、14年前まではそれに匹敵する競馬ファンが押し寄せていたというのはいかに全盛期の地方競馬が賑わっていたかを物語っている気がします。

 最近では地方競馬ネット投票も普及し、売得金レコードというニュースも頻繁に目にするようになりました。皆さんにとっても地方競馬の大レースというのは身近なものになりつつあるのではないかと思います。

 

 地方競馬の特別な一日、JBCデーを是非お楽しみください。

文と写真・馬人