ミルファームの2歳馬情報~チャンスを狙う野望とともに~

驚異の1レース8頭出しなどで話題に事欠かない牧場といえば?
 
そう、メンコの額に赤い「ハート」と「Mの文字」でお馴染みのミルファームだ。
今回は、ミルファームの清水社長にお話をお伺いすることが出来た。
今年の2歳馬を中心に、ざっくばらんにお話してくださった貴重な内容となっている。
POGの参考にも、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。

有限会社 ミルファーム。

1996年8月に開業され、競走馬の「生産」「育成」「所有」を行っている。

この時期に気になるのはやはり、デビューを控えた2歳馬のお話だ。

 

今年の2歳馬の所有頭数は50頭。

そのうちミルファームで生産された馬は16頭いる。

今回はその中から3頭をピックアップしてお話を伺った。


ホクセツ (牡)

父:アイルハヴアナザー

母:オーミチェリッシュ

母の父:キャプテンスティーヴ

ひとつ上のオーバースペックが産まれるまで、この母には5回連続でプリサイスエンドが配合されていた。

ここまで同じ種牡馬を交配し続けたのは活躍馬が出る確信があったからなのだろうか、という事が頭に浮かぶ。

質問を受けると清水社長は、拍子抜けしたのか一瞬の間を置いてから、いかにも愉快といった風に笑い声を上げた。

 

「普通は種馬を変えていくケースが多いですよね。

上の馬が走るとそれと同じ種馬をつけたり。

でも、そういうのは関係なく『ずっと同じ種牡馬をつけ続けてみたらどうなっていくんだろう』『毎年同じ父母だとどうなるんだろう』と思って、試しにやってみたんです」

 

プリサイスエンドはアメリカのダート血統なので、産駒も芝はあまり得意ではない傾向にある。

しかし清水社長は、この「実験」をしていればそのうち芝で走る子も出るだろうと考えたのだ。

そしてその思惑通り、オーバースペックはプリサイスエンド産駒でありながら芝の重賞2着という結果を出した。

「こういう実験的なことが出来るのもオーナーブリーダーならではですね」

わくわくと楽しげな声で語るその口調からは、清水社長の少年のような好奇心が垣間見れた気がした。

 

それでは、今年の2歳馬はなぜプリサイスエンドでなくアイルハヴアナザーを配合したのだろうか。

 

「若干後悔しているんです。

一生涯同じ種牡馬っていうのもやってみたかったな、と」

 

ではどうして父を変えなければならなかったのか。

 

その答えは、産駒の性別にある。

今まで5回連続で、オーミチェリッシュの仔はすべて牡馬なのだ。

そこで牝馬が生まれて欲しいと願って、配合を変えてみたのだという。

 

しかしどうだろう。

父アイルハヴアナザーで生まれてきたホクセツもまた、男の子だった。

なんとも皮肉な結果であるが、これこそが「生産」の面白さだとも言えるかもしれない。

 

今までの「実験」ではダートの血統から芝で走る馬も出ることがわかった。

では、今回のホクセツは、芝とダートのどちら向きといえるのだろうか。

 

「馬体がやわらかいので芝向きかなと思います。

 良い馬体ですよ。『垢抜けた好馬体』っていうんでしょうね。

 性格はおとなしい馬です」

 

そう語る清水社長の口からは、インタビュー時の4月の時点で既にデビューの話が出てくるから驚きだった。そして実際、新馬戦最初の週に芝マイル戦でデビューを遂げている。


そう言われれば、ミルファームの所有馬たちはこぞってデビューが早い印象がある。

理由を問うと、さも当然とばかりにさらりと答えが返ってきた。

 

「ライバルが少ないうちに勝ち上がりたいですからね。

そこを目指して調整をきちんとすれば、1週目にだって間に合います」

 

目標に間に合うように馬を調整するのは自分たちの仕事、ということだろう。

その言葉からは、ミルファームの自信とプライドが感じられた。

 

では、同じレースに何頭も出走させる、いわゆる「多頭出し」。

これも多く見受けることがあるが、その意図とは何なのだろうか。

 

ラグビーのモールを組むように数で押し込む作戦です。

押し切るレースをしたいんです

 

競馬とラグビー。

なかなか結びつけるのが難しいかと思う両者だが、清水社長の手にかかれば思わず納得してしまう。

納得せざるを得ないほど、自分の道をひたすらに信じている人特有の強い輝きを清水社長の言葉は放っていた。


オルレアンノムスコ (牡)

父:パイロ

母:オルレアンノオトメ

母の父:チーフベアハート

母であるオルレアンノオトメは芝で2勝、ダートで1勝という活躍をみせた馬だ。

一見オールマイティのように見えるが、そうではないかもしれないと清水社長は言う。

 

「芝で2勝しているんですけど、切れ味乏しい勝ち方だった所があって。

 だからダート1800も勝ったのかな、と」

 

そういった見解もあり、オルレアンノムスコは清水社長曰くダート向きらしい。

体もだんだん大きくなってきて、今は470~480キロくらいあるという。

性格はおとなしく、人馴れしていて、優等生。

清水社長お気に入りの牝馬の初仔ということもあり、活躍が楽しみな1頭だ。

デビューは東京第3週ダート1400を予定しているとのことだったが、実際には芝1400でのデビューとなった。

その辺りの経緯について、次回お話を伺う機会が得られればぜひ聞いてみたい。

 

オルレアンノムスコの父はパイロだが、今年の2歳馬はパイロ産駒が多い。

これには理由があって、ダーレースタリオンとの交渉で、まとめて種付権を得ているのだという。

「値段は言えませんけど、かなりの好条件でした」

そういう事情も、我々が競馬育成ゲームをしている中では感じられない、まごうことなき現実らしい生々しさがあって良いものだ。

 

また余談だが、牝系には名牝ロイヤルサッシュのいる血統ということで、今年の配合は牝系を気にしてみたという

ボトムライン(母系統)とのクロスを狙って、あのゴールドシップをつけたのだ。

ゴールドシップも母系を辿ればロイヤルサッシュに行き着く。

サンデーサイレンスの3×4ということにもなる。

まだ先の話にはなるが、こちらも楽しみな1頭として覚えておいて損はないかもしれない。


ココロザシ (牡)

父:アドマイヤムーン

母:リーベストラウム

母の父:ゼンノエルシド

こちらは全兄がストーミーシーという血統。

ちなみにストーミーシーがデビューする前に、この同配合に踏み切っている。

しかし、特にストーミーシーを意識してのことではないという。

理由としては、アウトブリートのきいた配合が気に入った、ということになるだろうか。

母父がサンデーサイレンスではないというのも清水社長には好印象のようだった。

 

ストーミーシーと比べると、薄くて線が細いというココロザシ。

「兄貴とは違うね、とよく話していますよ」

ストーミーシーが500キロあったのに比べ、ココロザシは今460キロ。

ここまでの体格の違いというのは、不安になることもあるだろう。

 

しかし、清水社長はそうした要素も、もちろん前向きに捉える。

 

「やわらかいので、瞬発力があれば芝で走るんじゃないでしょうか。

芝で良く出て欲しいですね」

 

それは祈りにも似た、心からの願いのようにも聞こえた。

無事にデビューして、不安だった日々を笑い飛ばせるような成績をぜひ残して欲しい。


以上、3頭についてピックアップしてお届けした。

では、今年の2歳馬は他にどんな馬がいるのだろうか。

 

期待の1頭を挙げるとしたら、ウッドカービングだと清水社長は言う。

「純粋に走って欲しいですよね、初仔好きとしても」

どうやら清水社長は未知な部分のある初仔が好きな様子だ。

ウッドカービング (牡)

父:パイロ

母:スターゲイジング

母の父:ホワイトマズル

では、大物感のある馬はどの馬なのだろう。

「ウッドカービングと、あとはポンエペレ。この2頭は他とは全然違いますね」

ポンエペレは父アイルハヴアナザーだ。

こちらも注目しておいた方が良いかもしれない。

ポンエペレ (牝)

父:アイルハヴアナザー

母:ミュージカルパレス

母の父:アグネスタキオン

また、今年の2歳馬の中にミルファームで血統を残したい馬がいるかを問うと、

「是が非でもチクタクボンボンは繁殖に欲しいです」

との回答が返ってきた。

ちなみに母系については、子出しが良いか、産駒が大きくなるかが重要だと考えているという。

チクタクボンボンは母が秋華賞馬ティコティコタックということで血統面でも申し分なく、期待されるのも当然だろう。

チクタクボンボン (牝)

父:ゴールドアリュール

母:ティコティコタック

母の父:サッカーボーイ

それでは、種牡馬に目を向けてみよう。

ミルファームにとって魅力的な種牡馬の条件として、

 

産駒がコンスタントに走る

勝ち上がり率が良い

 

この2点を挙げていただいた。

 

具体的には、今年から日本で供用されるディスクリートキャットに注目しているという。

ダート血統で、やわらかい。

確かに清水社長の好きそうな種牡馬だな、と頷ける。

 

サンデー系の種牡馬は「わざわざ人気の有名所の種牡馬はつけない」と決めているとのことで、これからどんな配合をされるのかも楽しみである。

 

そして気になるのは、今後のミルファームの野望だ。

これまでも競馬ファンが驚くことをしてくれてきたミルファーム。

最終的には、どんな目標を持たれているのだろうか。

 

自分のところの所有馬を種牡馬にして、100%自分所有の馬を作りたいです。

門外不出で種を独占したいですね。

そして、今の勢力図を逆転させたい」

 

それは……近い将来、起こり得るのでしょうか。

失礼ながら、そう尋ねると、

 

「まだしばらくはならないとは思いますが、自分が生きているうちに一度くらいチャンスはあると思っています」

 

真剣な口調からは、獲物を狩る一瞬のチャンスを窺う肉食獣のような鋭ささえ感じられた。

誰もが「まさか」と思ってしまうようなことも、最初から諦めることは絶対にしない。

それがきっと、ミルファームの強みなのだろう。

その姿勢に共感する人たちが、ミルファームの魅力にハマってしまうのもわかる。

 

最後に、ミルファームを応援している競馬ファンへメッセージをいただいた。

 

「有名所、人気所が注目されがちな中、うちみたいなマイナーな所を応援してくれているのは本当に有り難いです。これからもそういう視点で、メジャーだからというだけじゃない視点で、みなさん自身の視点で競馬の楽しみを発掘して欲しいです。売れている上位ではなく、人がまだ気付いていないような、スポットライトを浴びていない所を注目してもらえると、僕達も勉強になります」

 

時折笑い声を挟みながらの、終始なごやかなインタビューとなった。

わたしのおかしな質問にも真摯に向き合ってくださったミルファームの清水社長に心からの感謝と、今後のミルファームの発展を祈り、ここに筆を置く。

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ミルファームのお話

文・笠原小百合

写真・まゆぞう