オルフェーヴル伝説 最終章「有馬記念」

黄金のたてがみを揺らし、悠然と走るその姿は神々しさに満ちていた。
他馬を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っていたオルフェーヴル。
その現役生活終焉の地に選ばれたのは、年末の中山競馬場。
ラストランの舞台である有馬記念で待ち受けていたのは、劇的勝利で迎えるグランドフィナーレだった――。

多くの驚きと感動を残しターフを去ったオルフェーヴル。
彼のその生涯は、奇跡のような偶然からはじまる。

母オリエンタルアートがオルフェーヴルを受胎した2007年。
実は交配相手にはステイゴールドではなくディープインパクトが予定されていたという。
しかし3度に渡ったディープインパクトとの交配はすべて不受胎に終わり、空胎を避けるためにステイゴールドが再び相手役に選ばれ、見事1度で受胎する運びとなったのだ。
まるでオリエンタルアートがディープインパクトを拒み、ステイゴールドを好んでいたかのようにもとれるこの結果。
偶然だとわかっていても、そこにドラマやロマンをつい求めてしまいたくなる。

こうしてオルフェーヴルは、父ステイゴールド譲りのやんちゃな性格だけでなく、ずば抜けた競走能力を持って生まれた。
以下、それを形容するエピソードとともに、オルフェーヴルの戦歴を振り返りたい。

・デビュー戦を無事に快勝したオルフェーヴルは、ゴール後に暴走。鞍上の池添騎手を振り落としてしまい、口取りの記念撮影ができなかった。
・二桁着順に沈んだ京王杯2歳ステークスではゲート内で他馬を恋しがって嘶き、スタート後も始終集中力を欠いていたという。
・東京優駿(日本ダービー)では田んぼのような不良馬場を力強く駆け抜け、その高い能力を日本中に知らしめた。
・三冠目の菊花賞でも他馬の追随を許さない危なげない競馬を披露。史上7頭目となる三冠馬の称号を手に入れた。しかさはゴール後にはまたもや池添騎手を振り落とすという一面も。
・「オルフェーヴル時代の到来です!」という実況の通り、有馬記念を制覇すると3歳四冠を達成し、新しい時代の幕開けを告げた。
・そうかと思いきや、次走の阪神大賞典では向こう正面で抑えきれない勢いで先頭に立つと急に失速。しかしそこから盛り返し、大きなコースロスがありながらも2着になるという逸走騒ぎを起こした。
・前走の天皇賞春が11着でありながらも宝塚記念は1番人気に支持され、それに応えるように見事グランプリを制覇する。
・凱旋門賞への挑戦では、勝利を確信しそうになるほどの非常に惜しい競馬で、日本のファンを大興奮させた。
・ジャパンカップでは三冠牝馬ジェンティルドンナとの激しい叩き合いの末ハナ差破れるものの、歴史に残る名勝負を繰り広げる。
・再び挑んだ凱旋門賞ではまたまた2着になり、世界の壁の高さを痛感させられた。
これだけの記録・記憶をざっと書き出しただけでも、オルフェーヴルの凄さは十分に伝わるだろう。
オルフェーヴルにまつわる数々の思い出はわたしたちの中にいつまでも残されている。
しかし、あの日中山競馬場で目撃した出来事だけは、ただの思い出として語りたくはない。
あれはまさに伝説として語り継いでいくべき瞬間だった。

2013年12月22日。
オルフェーヴルの引退レースとなる第58回有馬記念が開催された。
無事に種牡馬にすることを考え今回は80%の仕上げという陣営のコメントがあり、勝利を不安視する声も聞かれた。
それでも引退レースということもあり単勝1.6倍という圧倒的1番人気に支持されて、ラストランのファンファーレは鳴り響く。

カタン、とゲートが開き一斉に16頭がスタートする。
ルルーシュが逃げてレースを引っ張る展開だ。
オルフェーヴルは前年の有馬記念の覇者であるゴールドシップの後ろにつけた。
1周目のホームストレッチを過ぎると、スタンドからは大歓声が湧く。
オルフェーヴルは落ち着いた様子で、後方4番手で追走を続ける。
向こう正面を過ぎる頃、残り600メートル付近でググっと馬群が縮まる。
次の瞬間、目に入ったのは3コーナーを回りながら徐々に大外を進出していく金色の馬体。
抜群の瞬発力を見せつけながら4コーナーを過ぎると、早くも先頭に立った。
その後は、常識を覆すような強さで、ただただぶっちぎる。
どこまでも、どこまでも、駆けていってくれるような気がした。
わたしたちを新天地へ連れていってくれそうな、そんな夢のような強さで。
2着ウインバリアシオンに8馬身差の圧勝劇。
その競走生活のエンディングをオルフェーヴルは大団円で飾ったのだ。

レース後に行われた引退式では、多くの人が寒さに震えながらも温かな拍手でオルフェーヴルの偉大なる競走生活を讃えた。
赤、青、白にきらめくカメラのフラッシュが宵闇に浮かぶ中、堂々たるオーラを放つオルフェーヴル。
その姿は、今もはっきりとこの瞳に焼き付いている。

ラストランにしてベストランを見せてくれたあの日、オルフェーヴルと同じ時同じ場所に居られたことを誇りに思う。
オルフェーヴル伝説の最終章は幕を閉じたが、わたしたちは伝説を終わらせない。
夜空に光り輝く一番星のように、金色に染まった伝説をいつまでも語り継いでいこう――。
それはただのわたしの決意ではなく、オルフェーヴルとの大切な約束のように思えてならない。
今年も中山競馬場で肌を突き刺す冷たい風に吹かれる度に、あの感動が、よみがえる。

文・笠原小百合

写真・ウマフリ写真班

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