少年たちの確固たる誓い~7週連続G1第6戦 朝日杯フューチュリティステークス~

Futurityは未来、将来という意味の単語だが、朝日杯フューチュリティステークスを勝った馬には輝かしい将来が約束されている……というわけではない。

競馬に絶対はないのだから、将来の成功を軽々しく約束することもまた出来ない。

ひとつだけ、このレースの勝ち馬に約束出来るとすれば、2歳王者という称号だけだ。

そしてそれはただの名誉ではなく、来年のクラシックへと進むためのチケットでもある。


昨年の朝日杯フューチュリティステークスの覇者であるリオンディーズも、今年のクラシックを賑わせた1頭だ。

新馬戦を快勝し、デビュー2戦目にして挑んだ朝日杯フューチュリティステークスは最後方からの競馬となった。

道中じっくりと脚を溜め、4コーナーを過ぎて直線に入ると1頭だけ違う勢いで馬群を抜き去る。

強い競馬内容で朝日杯フューチュリティステークスを制覇し、翌年のクラシック有力候補へ名乗りを上げた。

そして、年が明けて3歳。

出走した皐月賞、東京優駿はともに無念の5着となったが、残るクラシックの栄冠は半兄エピファネイアが優勝している菊花賞。

自然とファンの期待は高まっていた。

しかし、次走である神戸新聞杯出走の調整を進めていた矢先に、その報は飛び込んできた。

リオンディーズ、年内休養。

屈腱炎という競走馬の宿命ともいえる怪我は仕方がないとはいえ、競馬ファンは悲しみに暮れた。

それでも古馬になってからまたその勇姿が見られるのであれば、今はゆっくり休んで欲しい。

ファンは皆、同じ想いでいたことだろう。

そこへ追い打ちをかけるように、そんな願いを打ち砕くように、衝撃が走る。

リオンディーズ、電撃引退。

怪我の症状が思ったよりも重く、復帰は難しいとの陣営の判断だった。

志半ばでの引退となってしまったリオンディーズ。

しかし、種牡馬として活躍すべき第2の舞台に上がることが出来た。

あの躍動する漆黒の馬体を想起させるような産駒が出てくることを思うと、今から胸躍る。

けれど。

あなたの走る姿をもっともっと見たかった――。

もし、リオンディーズがまだ走れていたならば。

競馬に「たられば」は禁物だが、ついそんな想像をしてしまう。

というのも、クラシック戦線を賑わせた後、古馬になってからの楽しみも朝日杯フューチュリティステークス勝ち馬にはあるからだ。

 

グランプリ三連覇を果たしたグラスワンダー。

香港G1を3勝したエイシンプレストン。

ダートへの路線転向で花開いたアドマイヤドン。

彼らも朝日杯フューチュリティステークス(もしくは旧・朝日杯3歳ステークス)の優勝馬だ。

3頭それぞれが、全く異なるそれぞれの道を見つけ、今では名馬となっている。

そう考えると朝日杯フューチュリティステークスは分岐点なのかもしれない。

そんな分かれ道となる同レースで、己の道を切り拓いた1頭として今回紹介したいのがドリームジャーニーだ。

 

ドリームジャーニーの名を出せば、一緒に出てくるのは弟である三冠馬オルフェーヴルだろう。

「オルフェーヴルのお兄ちゃん」という印象が強い人もいるかもしれないが、弟の名を借りなくとも、ドリームジャーニーは優秀な成績を残した立派な名馬といえる。

 

朝日杯フューチュリティステークスの勝利はその序章だった。

スタートしてまもなく、1頭離れた最後方を追走するドリームジャーニー。

前の馬との差が広がっていくと、ファンたちの間に不安が広がる。

ドリームジャーニーには、直線の追い込みがあるから、大丈夫。

皆そう己に言い聞かせながら、息を殺して懸命に走る小さな馬体を見つめる。

そんなファンたちの視線を知ってか知らずか、ドリームジャーニーは3コーナー手前で進出を開始すると、大外を回して4コーナーを通過。

そしてやってきた、最後の直線。

大外に進路をとったおかげで前に壁はなく、ドリームジャーニーの目には清々しいまでに真っ直ぐに広がるターフが見えたことだろう。

ここからは、ドリームジャーニーの独壇場だった。

後方一気の鬼脚は、2着ローレルゲレイロに1/2馬身差で優勝の2文字を勝ち取った。

416キロという出走馬中最低体重の小さな体で懸命に走る姿は父ステイゴールドを彷彿とさせ、ファンたちの心を打った。

輝かしい将来を自分のものにするため、切り拓いた道。

同年の最優秀2歳牡馬にも選出され、こうして、道は整った。

翌年、ドリームジャーニーはクラシック戦線へと羽ばたいていく。

 

しかし迎えたクラシックでは8着、5着、5着といったイマイチな結果だった。

4歳時にはG3を2勝したが、果敢に挑戦したG1では結果を残せなかった。

それでも翌年には大阪杯を勝つと、ファンもびっくりする偉業を成し遂げる。

宝塚記念、有馬記念とグランプリ連覇を果たしたのだ。

念願の有馬記念制覇の時、わたしは興奮することを忘れて呆然とした記憶がある。

父ステイゴールド、母父メジロマックイーンの果たせなかった夢。

有馬記念を勝つことでドリームジャーニーは、彼らから受け継いだ夢の旅路を結実させたのだ。

特に、人気馬だった善戦ホースである父ステイゴールドを応援してきたファンは多く、わたし自身もその中の一人だ。

ステイゴールドの子どもがこうして夢の続きを見せてくれたことは、一瞬理解が及ばず信じられなかったほど、我が子のことのように嬉しかったのを今でも鮮明に覚えている。

ドリームジャーニーはステイゴールドファンからしてみれば、とびっきりの孝行息子なのである。

ドリームジャーニーがこうして活躍していなければ、オルフェーヴルも生まれなかったかもしれないのだから――。

 

そうして今、父となったドリームジャーニーは自身の産駒へ夢を託す。

今度は自身が果たせなかったクラシック制覇へと、夢の旅路は続いていく。


朝日杯フューチュリティステークスは、次の年のクラシック戦線の行方を占うという意味でも重要なレースだ。

しかし、クラシック云々よりもっと別の意味があるレースではないだろうかとわたしは考える。

このレースは、若馬たちが未来への決意を確かにするレースだと思うのだ。

馬自身にその決意が出来るかどうかは馬に聞いてみないとわからないが、少なくとも関係者の方々はそうだと思う。

調教や日々の生活、そしてレースで学び、結果を受けて、まだ若い馬たちは未来へと羽ばたいていく。

しかし、華々しい活躍ばかりが競馬ではない。

優秀な成績を残せないかもしれない。

怪我や不運に泣くかもしれない。

それでも、どんな結末が訪れる可能性もあることを覚悟した上で、その道の先には若馬たちの幸せな未来を思い描いていたい。

 

クラシックへ、裏街道へ、ダート路線へ、地方競馬へ。

競走馬を引退しても、乗馬として活躍出来るかもしれない。

そんなたくさんの可能性が引きめきあう朝日杯フューチュリティステークス。

これほど希望に満ちた輝かしいレースを見逃すわけにはいかない。

そしてレースだけではなく、ゴールの瞬間からはじまる物語にも思いを馳せたい。

彼らの馬生は、まだまだ、はじまったばかりなのだから。

文・笠原小百合

写真・ウマフリ写真班