アップトゥデイト~障害界の太陽~

彼はいつも、笑顔に囲まれている。
馬と人が、人と人が固い絆で結ばれている。


アップトゥデイト。
2015年の中山グランドジャンプ・中山大障害を制した、史上初の同年春秋ハードル王である。

芦毛の馬体につぶらな瞳。純真無垢な少年のような愛らしいルックス。まるで観客に愛想を振りまいているかのような仕草。

だが、彼のレースぶりは、外見からは想像すらつかない。第3コーナーをゴールに見立て、そこから無尽蔵のスタミナで押し切り、ライバル達をねじ伏せる「怪物」だ。


その素顔は、レースぶりをしる人間たちからすると意外なことに、気が小さく繊細。
その繊細さと慎重さが、障害レース、こと飛越における彼の武器となっているのだ。
短所と思われていた点が長所になり得るーー人間にも言える事だろう。

そして、とても素直な馬であるという。
そのひたむきさ、素直さが人々の心を打つのかもしれない。

彼を管理するのは、タップダンスシチー等そうそうたる名馬を手掛けた佐々木調教師。
アップトゥデイトの障害転向が決まるまでの16年間、ある信念を貫いていた。

1998年、管理していた1頭の障害馬・オーバーザガルチが落馬、競争中止。鞍上の北村卓士騎手は重傷を負ってしまった。

親交も深い北村騎手の事故により、「二度と障害馬は手掛けない」と誓った佐々木調教師。
師が16年間抱き続けた意思を変えたのは、アップトゥデイトのひたむきさ、素直さであったという。


また、アップトゥデイトと主戦の林騎手は、コンビとなる運命にあったと、私は感じている。
林騎手とその師匠である吉田調教師は、前々からオーナーとのご縁があり、アップトゥデイトの障害転向時、「主戦は林騎手で頼む」と仰ったそうだ。

平地騎手免許を返上し、障害専門騎手となった林騎手がG1ジョッキーとなるチャンスは、年に2度。
騎手生活30年目。オーナーのために、何としてでもアップトゥデイトと共にG1を制覇したいという強い思いがあった。


しかしオーナーはご病気により、意識不明に陥ってしまう。
「アップトゥデイトのレースを見に行くんでしょう!」
奥様がかけ続けたお言葉に意識を取り戻し、彼に会おうと快方に向かわれたという。そしてアップトゥデイトはオーナーのご快復を心待ちにしていたかのように、華の大障害コースでオーナーを待っていた。

彼は人の希望となる、障害界の太陽だ。

幾つもの固い絆が結ばれた時、太陽は陣営を、障害界を、照らし始めた。


サラブレッドは空を飛ぶ。青空に映える白い馬体。
大生垣や大竹柵を越えてゆく、慎重で確実な、彼らしい飛越。どこにその末脚が残っているのだろうと思わせられる、無尽蔵のスタミナ。


2015年、並みいる強豪を退けての中山GJ制覇。
レース終了後はJ-G1の優勝馬服を纏い、誇らしげな、そして時に愛らしい表情を見せるアップトゥデイト。
ウィナーズサークルに集まったファンはその強さを讃え、人馬を祝った。

そしてその中で、
「俺はアップトゥデイトが大好きなんだよ!」
「アップ、今日も可愛かったね」
と、老若男女問わぬ沢山のファンの声が広がった。


G1ジョッキー・林騎手が仰る
「俺のゴールドシップ」
という言葉。愛すべき芦毛のゴールドシップを讃えるお気持ちと共に、障害界を盛り上げたいという強い意志が感じられる。


「俺のゴールドシップ」は、「皆のアップトゥデイト」。

アップトゥデイトはいつも、陣営の、ファンの笑顔に囲まれている。彼の周りでは馬と人が、人と人が、固い絆で結ばれている。
自ら輝き、人々に笑顔や希望を与え続ける。きっとこれからも、障害界の太陽として。
アップトゥデイトが成し遂げた、史上初の同年春秋J-G1制覇という快挙。
冬の西陽を浴びてウィナーズサークルに立つ彼は、いつにも増して沢山の笑顔に包まれていた。
文・川井旭
写真・たちばなさとえ、わふー