砂の王者は崩れない~7週連続G1第4戦 チャンピオンズカップ~

ディープインパクトが三冠を成し遂げた2005年。

デビュー以来、ダート競走において連を外さない強さを見せ「砂のディープインパクト」と呼ばれた馬がいた。

地方競馬での3歳ダートG1を2つ勝ち、挑んだのはジャパンカップダート。

現在の「チャンピオンズカップ」よりも旧称であるこちらの方が馴染み深く感じる人もまだ多いだろう。

そんなダート王者決定戦であるジャパンカップダートを、見事優勝。

中央G1初制覇を果たすとその年の最優秀ダートホースに選ばれた。

年が明け古馬になり、G1フェブラリーステークスを優勝。

これから輝かしい活躍をしていく……はずだった。

しかし、彼を待ち受けていたのは、長い長い怪我との戦い。

屈腱炎を発症、治癒、そして再発を経験し、結果的に約2年4ヶ月の休養を要してしまった。

復帰初戦を9着で終え、迎えたのは3年ぶり2度目のジャパンカップダート。

今までの実績を買われ4番人気に支持された。

そして、レースがスタートする。

中団から好位にとりつくと、インコースを進み、4コーナーで一気に押し上げる。

残り2ハロンを過ぎた頃には先頭に躍り出ると、そのまましぶとく伸びて、迫り来るメイショウトウコン、ヴァーミリアンを振り切ってゴール。

2年10ヶ月ぶりの勝利は、史上初のジャパンカップダート2度制覇という記録となった。

その後も中央、地方問わずダート競走で引退のその時まで好成績を残し続けた。

 

彼の名は、カネヒキリ。

最後まで誇り高き砂の王者であった、名ダート馬だ。

さて、ダート競走というとどんなイメージがあるだろうか?

競馬のメインはあくまで芝で、ダートは芝を走れない馬の行く先――。

それは言い過ぎかもしれないが、日本競馬の花形は芝であるという風潮が、どうしてもあるように思えてならない。

しかし、それは中央競馬の世界でのことである。

日本各地に点在する地方競馬に目をやれば、世界は一変する。

地方はダート競走が主流で、芝コースのある競馬場のほうが珍しい。

それは、こうとも言えるだろう。

地方競馬と中央競馬、2つの競馬界を繋いでいるのがダート競走なのだ、と。

現在では地方と中央との交流競走がいくつも施行されており、中央の馬が地方で走ったり、また逆の場合もあったりする。

地方と中央。

その垣根を越える様子は、日本の競馬界が一丸となっているようで見ていて清々しい。

問題点もいくつか存在するが、日本競馬を盛り上げていくためにはダート競走の充実は欠かせない要素のひとつのように思う。

また、競走馬が息の長い活躍をみせるのもダート競走の特徴のひとつだ。

先に挙げたカネヒキリも8歳まで現役最強の座を争い続けた1頭である。

とはいえ、みんながみんな長く活躍出来るわけではない。

突然の悲しいニュースは、競馬の世界では避けることは出来ない。

 

今年のチャンピオンズカップでは、2頭の馬が出走を断念することとなった。

脚部ハ行が見られたことからチャンピオンズカップに出走せず、引退の運びとなったホッコータルマエ。

そして、調教中の事故によるタガノトネールの訃報。

2頭の与えた衝撃は週末のG1を、競馬を楽しみにしているわたしたちにとってあまりにショックで寂しいものだった。

そして、改めて競馬の難しさ、それを成し遂げる素晴らしさを痛感する。

無事に出走することすら簡単ではない世界。

レースに出て、無事に完走してくれることがどんなに奇跡的で有り難いことなのか。

そのために関係者の皆様が日頃どれだけ尽力されているか。

それを思うとわたしたちがこうして競馬が出来る喜びは何倍にも膨らむ。

馬券がハズレて悔しい想いをした時などは、どうしても愚痴や非難の声をこぼしたくもなる。

そのこと自体を否定するつもりは毛頭ない。

けれどその心の根底には、競馬が出来ることへの感謝の気持ちを忘れてはならないとわたしは思う。

レース出走に賭ける想いに、芝もダートも、地方も中央も関係ない。

どうか、全人馬無事に。

ファンファーレが鳴る度に、自然とそう祈ってしまう。

そんなわたしたち競馬ファンの祈りはきっと、競馬の神様にも届いているはずだ。

悲しい出来事も乗り越えられると信じているからこそ、神様はわたしたちに試練を与える。

だからどうか、今年のチャンピオンズカップは笑顔で終わりたい。

ホッコータルマエとタガノトネール、そしてすべてのダート馬たちの夢は、舞台に上がることの出来る15頭に託される。

土煙の中、最初にゴール板を駆け抜けるのは一体どの馬なのか。

祈りと興奮が入り混じった特別な気持ちで、その瞬間を見守りたい。

文・笠原小百合

写真・ウマフリ写真班