日本の地で世界と戦うということ~7週連続G1第3戦 ジャパンカップ~

今年からはじまった日本での海外馬券の発売に、胸躍らせた人は少なくないはずだ。
それに加え、2016年はマカヒキやラニ、エイシンヒカリら日本馬の海外遠征が何かと話題となった一年だった。
……と、今年を締めくくってしまうのはまだ早い。
12月には香港国際競走があり、さながら母国のレースであるかのような日本馬の顔ぶれで香港カップが行われる予定である。
年内に海外競馬を楽しむチャンスは、まだ残されている。

このように、日本馬が海外のレースに参戦すると注目されるが、それだけが「日本VS世界」の戦いではない。
日本には、外国馬を受け入れるレースが存在していることは皆様もご存知だろう。
中央競馬では現在、すべての平地における重賞が国際競走に指定されている。
つまり、目黒記念やアイビスサマーダッシュなどにも外国馬が出走することも可能なのだ。しかし現状では輸送やローテーションの問題などもあり、G1以外のレースにあえて参戦する外国馬が出てくることは考えにくい。

そんな中で、積極的に海外からの参加を促しているレースのひとつに挙げられるのが、今週末に開催されるジャパンカップだ。
東京芝2400メートルで行われるジャパンカップは、国際招待競走として創設された、日本初の国際G1である。
今年で36回目となる、日本のこの地にいながらにして世界の強豪たちと戦えるという夢のような舞台。
しかし創設初期のレースの方が「日本VS世界」という図式が色濃く表れていたと思うのはわたしだけだろうか。
過去の優勝馬のうち一番印象に残っている外国馬を1頭挙げよと言われれば、わたしは1989年の勝ち馬であるホーリックスを選ぶだろう。
ニュージーランドの芦毛の牝馬、ホーリックス。
ニュージーランド国内でG1競走3勝を挙げており、オーストラリアの競馬シーズン前半を締めくくるG1マッキノンステークス、そして日本のジャパンカップでも優勝という戦績を残している。
繁殖牝馬としてもメルボルンカップ優勝馬などを輩出しており、ニュージーランドで殿堂入りを果たしている。
ジャパンカップでのオグリキャップとの芦毛同士の戦いで日本でも一躍有名になった馬だ。

当時、オセアニア調教馬は走らないと言われていた。
それを払拭すべく、ニュージーランドの、いや、オセアニアの威信をかけてレースに挑んだというホーリックス陣営。
9番人気という低評価のオセアニア調教馬が、日本で絶大な人気を誇っていたオグリキャップに勝利したその瞬間は、不思議な感動に満ちていた。
それもそのはず。
優勝タイムは当時の日本レコードかつ世界レコード、2分22秒2。
時計が壊れているのではないかとすら疑いたくなるようなタイムであった。
これには、オグリキャップのファンであったわたしも素直におめでとうと、素晴らしい競馬を見せてくれてありがとうと言えた。
今はもう懐かしい、おぼろげだが確かに記憶している、ジャパンカップの思い出の1頁である。
さて、ジャパンカップの項でホーリックスに触れたのならば、日本のこの馬も紹介すべきだろう。
牝馬としてはホーリックス以来、日本調教馬となると初のジャパンカップ優勝を飾ったウオッカだ。
ウオッカ嬢のこの勝利は、記録づくしの大仕事だった。

まず先程も述べたように、牝馬によるジャパンカップ制覇は89年のホーリックス以来となる20年ぶり。通算では4頭目で、日本調教馬による制覇は史上初だ。
また、ダービー馬によるジャパンC制覇も、牝馬では史上初。
中央G1を7勝という記録はシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクトと並ぶ史上最多タイ記録。
それから、このジャパンカップの勝利をもって東京競馬場芝コースで行われる古馬G1全てを制した。
もちろんこれもJRA史上初の出来事だ。

ざっと書き出しただけでも圧倒されてしまう、この史上初尽くしの女傑・ウオッカ。
3度目の正直でジャパンカップを制した5歳牝馬の動向が注目されたが、鼻出血を発症していた関係で有馬記念には出走できず。
そのため彼女は、過去2年出走しているドバイの地をラストランに選んだ。
しかし、再びの鼻出血によりドバイワールドカップ出走は叶わず、引退することとなった。
そして現在はアイルランドで繁殖牝馬として生活している。
ウオッカの場合は過程としては少し例外だが、昨今では国外レースをラストランに選択することも増えてきている。
こういった現象に、日本の競馬が世界に通用することを嬉しく思う反面、国内レースではダメなのか?とも思ってしまい、少し寂しくなる自分もいる……というのが個人的な意見ではある。

より強い相手を、名誉ある勝利を求めて、世界へと羽ばたいていく競走馬たち。
それを止める権利をわたしたちファンは持ち合わせていない。
向かうべきレースは、関係者の方々が懸命に考え、出した答えだ。
異なる意見があったとしても、答えに従うほかにない。
だけど、と思う。
日本のこの地で、日本のレースで、もっと世界の強豪たちと対戦出来ないものか、と。
日本競馬のレベルを上げ、広義の意味での門戸を更に開き、日本競馬の良さをアピールして。
そうして外国馬を日本に呼ぶことは、世界に媚びることとは違う。
世界各国から挑戦したいと思わせる日本のレースを作り上げていくことが、これからの日本競馬の発展に欠かせないのではないかとわたしは思っている。
夢で終わらせたくはない物語。
わたしたちの声で、日本競馬をより良い方向へと変えていけるように。
競馬ファンひとりひとりの意識の持ち方が、今、問われているように思えてならない。
日本で当たり前のように世界の強豪が走るその日が訪れ、改めて「日本VS世界」を名乗るレースが出来るのであれば、迎え討つ日本勢も最高のメンバーを揃えたい。
ホーリックスのように国の威信をかけて戦いを挑みにくる外国馬を、ウオッカのような強さをみせる日本馬で迎え討ちたい。
そのレースが、ジャパンカップという日本の名を冠したレースであれば、最高だ。
文・笠原小百合
写真・ウマフリ写真班